Contemporary Japanese calligraphy artist Hiroshi Ueta

2015年03月02日

墨の秘密と魅力!株式会社呉竹見学2

さて。株式会社呉竹さんに見学に伺った件のお話です。
ちょっと長い文章になりましたが
書道をやってる人でも知らない墨情報がまじっていると思いますよ。

にぎり墨

株式会社呉竹本社のある奈良はシェア95%をほこる日本でも有数の墨の産地で
1400年頃から作られる様に成りました。

ロウソクを燃やしていると黒い煤(すす)が出ますね。
あの煤が墨の黒を生んでいるんです。
何を燃すかで墨色にも影響があるのですが
一般的なのが菜種や胡麻油を燃やした油煙墨→これが茶系の墨色。
松を燃やしたのが松煙墨→青系の墨色。
(青墨と今一般に言われてるのは青い色が入っている事が多いです)

と、一般に言われているのですが
実はそう見えているだけ!
煤の色は同じ黒なのですが
粒子の大きさが油を燃した煤は小さく、松の煤は大きい。
色は光の屈折で見えますから
粒子の小さいのは茶というか赤っぽく見え
大きいのは青っぽく見えるのだとか。

あと膠(にかわ)が原料なのですが
これは昔は接着剤としても使われていたのですが、ゼラチンを主にした動物性たんぱく質。
(豚骨スープの上に浮いてる油の様なモノ。と私は理解しました。)

以上だと思うでしょ?。

あともう一つ香料が入っているのです。
墨をすっている時に「墨のイイかおり」とよく言いますがあれは墨に入っている香料のかおり。
当然と言えば当然で、基本膠は臭いモノです。
それを和らげるのにジャコウ、龍脳、梅花香等が入っているそうです。
もっと詳しくという方は呉竹さんのHP

最盛期39軒あった奈良の墨屋さんは
現在10軒そして墨職人さんはなんと8人・・・?
そう墨職人さんはカケモチなのです。
そしてまた残念な事にその8人でまかなえる程度しか需要がないという現実。
(ここで前回のプロの書家でも墨はすらないという所に関係してきます)

膠のイタみのはやさもあり、墨は寒い時期に作ります。
水を加え湯煎し膠を溶かした膠液に煤と香料を交ぜあわせると粘土の様なモノに成り
それを木型に入れて成型、乾燥させるのですが
原料を粗混ぜする時以外は全て手作業。
スゴイ職人仕事が盛り沢山でした。

墨を練り木型に入れ、沢山ある万力に挟みます。



乾燥。木枠には灰が敷き詰められており、一気に乾燥すると割れが起こるので
初めは湿度の多い灰で、毎日徐々に湿度の少ない灰に入れ替える。30日間。



稲藁に結んで100日ほど空気乾燥。

しかし、墨は新しいのは良くないと言われます。
本当に乾燥しきるまでに、それから3年。
また膠の特性が安定するには更に3年。
墨が最も真価を発揮するのは製造後20年~50年だとか。
という事は、いま昭和の墨を使う位が一番良いという事ですね。

墨型彫刻の職人さん。
恐ろしい程細かい仕事をされていました。




今回神戸で一緒に展示会をしたイラストレーターの上田バロンさん
グラフィックデザイナーの泉屋宏樹さんのトラトラトラの3人で伺ったのですが
特別にそれぞれ「にぎり墨」を体験させて頂きました。
棒状に練られた墨を手で握って成型するのですが
墨の綺麗な光沢感と、ホンワリした暖かさが印象的で
意外に握った手にはほとんど墨が着かないのでした。
私のにぎり墨は最初の画像で。


嬉しかったのは呉竹さんで働いてらっしゃる職人さんは若い方もいらっしゃた事。
呉竹さんでは若い職人を育てる事にも力を入れられてるそうで
墨型彫刻の方も、奈良で一軒に成った有名な墨型彫刻職人さんの所で修業されて
こちらにいらっしゃるとの事。

墨の魅力って色々あると思うのです。

前回も言いましたが1000年以上もつ事が証明された画材である事。
(聖徳太子の書いた字が今も残っているのですよ。)
聖徳太子筆 法華義疏

墨で書かれた木の表札は
木の部分は風雨で痩せていきますが、墨で書かれた所は痩せないので
文字がポッコリ盛り上がった様になります。

墨色で同じ色というのは出せません。
同じ墨、同じ硯でも磨る力の入れ加減で変わります。
もちろん同じ墨でも硯が変わると色が変わる。
紙を変えれば色が変わる。
では目の粗い硯と細かい硯両方ですって合わせると・・・・?
こんな事を考え出すと表現は無限です。

少し裏技を言うと。
今の様な寒い時期は水も硯も冷たくて墨がオリにくい時期。
膠は温度が上がると柔らかくなる性質なので
硯を温めたり、水の温度を上げてあげるとオリ易く成ります。
(という私もあまりしないので、加減は分かりませんが・・)

また歌舞伎等の”まねき看板”を書く時は
墨をすり鉢ですりつぶし、艶を出す為に日本酒を入れた
墨汁を使用するのだとか。

どうです?
こんな魅力のある画材を使わない手は無いと思うのですが。

墨液は小学校教育の為に生れた事は前回書きましたが
なんでも速く、便利な今の時代だからこそ
逆に墨を磨る事を取り戻し、自分色の墨色を楽しむ様な授業にした方が
豊かな授業に成る気がしたのでした。

最後に成りましたが
無理なお願いに気さくにお答え頂き、色々お話を聞かせて下さった株式会社呉竹の綿谷会長をはじめ
お助け頂いたスタッフ方々。お仕事を拝見させて頂いた職人皆さんに感謝申し上げます。


  
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Posted by HIROSHI UETA at 12:35Comments(2)文房四宝