「海の庭」完成

HIROSHI UETA

2023年01月15日 16:59



エッセイ集「海の庭」 大竹民子著
出版元:国書刊行会
装丁:泉屋宏樹
挿絵:宮本信代
表紙、題字:上田普


静かで美しい本が完成しました。
始まりは2019年の神戸のアート〇美空間Sagaさんでの個展「蹟 SEKI」展に
著者の大竹民子さんが松江からお出で頂いた事です。

大竹さんは以前から私達が制作した泉鏡花の「絵本化鳥」のファンでいただいてて
それで私の事を調べて頂いており
神戸の展示の機会にわざわざお出で頂いたのでした。

そこで制作中の本の題字の依頼を頂き
2020年末に完成したのが「からころ」。
コレも美しい本でした。

そして第二作目の今回
「絵本化鳥」の装丁を担当した泉屋宏樹さんも参加し
絵本化鳥の美しさは踏襲しながらも
全く新しい装丁を考えようとなり動き出しました。

「海の庭」のエッセイは山陰の海と京都の龍安寺の石庭が出てくるお話。
そこからこの本の縦横の比率は龍安寺石庭の比率になっています。
石庭の上からの画像を見たのですが


何か知ってる石庭とは印象が違う。
そりゃそうです。私達は画像で言うと右側の縁側から見ています。
きっと作庭した人も真上からの目線は意識していない。
本堂から庭を見てどう見えるのかです。
ソコにはあるけど目線からは見えない石もあり、その事で奥行きを出したりと
考えられているハズです。



なので私は石庭を象徴する墨点で表現したのですが
上から見た15個の石の場所をなぞる事はせず
本堂や縁側から見た印象を取り入れ、3つの墨点で表現しました。
そしてソコからにじんでいく墨がその周辺の石の存在を意識させつつ
波紋を表現できる様にしました。

本の装丁では薄い紙に墨の印刷をしており
二枚目の表紙の紙にエンボスで砂紋を表現しています。
二枚の紙を合わせる事で完成する石庭です。

作庭家の小川 勝章さんにお伺いしたお話で
「庭の石は置いているのではなく、埋めている。
地上に見えているのは、石のごく一部分」
という話がずっと私の頭の中にあり
地下部分の石も想像しながら見ると、もの凄く世界が広がったのです。
ソレをコンセプトにした「石」の作品も作っていますが
今回は本という事で実際に紙のレイヤーもあり、厚みもあるので
その地下部分も表現できると考え
本の裏面は埋まっている石部分を表現しています。




二枚の表紙をめくるとコデックス装の濃紺の本が出てきます。
側面も同色に塗られており、かがっている糸も濃紺。

そして文中の挿絵はこれも大竹さんが
以前から見て頂いており、母の宮本信代の墨の絵が好きだと仰って頂き
今回担当致しました。

「海の庭」より

「空道」より

「空道」より

「池」より

「ツキヤ川」より

「蛇」より

著者 大竹民子さんの静かで暖かな語り口の9編のエッセイ。
昔住んでいた京都、山陰の文化、景色、和歌の話など
著者の原風景ながらも、不思議と読み手も自分の原風景も思い出したり
小さき目から拡がっていく時間と文化の旅。
文章と相まった湿度を感じる墨の絵。

またこの不思議な寸法の本は
手に収まりの良い大きさで、コデックス装の装丁は180度簡単に開きます。
どうぞお手に取って楽しんで頂ければと思います。
コチラの国書刊行会さんのHPから入手可能です。https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336074461/
装丁に関する詳しい事は泉屋さんがnoteに書いてくれていますので
一緒に読んで頂ければ一層楽しんで頂けると思います。

またこの「海の庭」の完成に伴い原画展を行います。
宮本信代の挿絵の原画。
私の題字、表紙の作品。
また装丁の裏側も垣間見れる展示となる予定です。
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『海の庭』出版記念原画展
場所:島根県立美術館 ギャラリー3室
会期:2023年3月3日(金)- 3月5日(日)〈3日間〉 
    10:00〜18:00 入場無料
ギャラリートーク:3月4日14:00~15:00

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こちらも是非楽しみにして頂ければと思います。


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