Contemporary Japanese calligraphy artist Hiroshi Ueta

2022年01月11日

「書を宿す」コラボレーションwith 矢﨑悠悟さんの話

「去年今年貫く棒の如きもの」虚子
コゾコトシと読みます。
去年、今年と言いますが貫いた棒の様なモノ。
と言いますから去年の話をします。

昨年の金沢での個展「蹟SEKI」にて行いました
コンテンポラリーダンサーの矢﨑悠悟さんとのコラボレーションのお話。

事の始まりはThe Terminal Kyotoさんでのグループ展「connection」に
たまたま矢﨑さんがお越し頂き
地下に展示していた映像作品<2020/04/17 - 2020/05/28> を見て
この筆音で踊ってみたいというお話からでした。

書く音があると気付いたのは
パリでチェロのミュージシャンとコラボレーションした際に用意してもらった紙が
水彩紙で普段の紙より硬く、また土の上に紙を置いた為にリハーサルの時に
ガサガサと音がする事に気付いた時でした。
結構分かりやすく音がするので、その音も使ってセッションする様にコラボレーションしたのです。

それから日本で振動を拾うマイクを手に入れ
紙の上で書く音を増幅するようになり、ジャズバンドどのコラボの時も使っているのですが
ふと古典の臨書する時に、元の筆者のリズムがその人の呼吸にも通じると感じ
また書く音が呼吸にも感じられると思った所でした。

そこでコロナ禍を記録しようとした
映像作品<2020/04/17 - 2020/05/28> にも筆音を記録しようとしました。
この作品は2020年4月17日~2020年5月28日の間のパンデミック時の私の記録です。
色んな人が色んな事を言っているこの先の世の中、今後の私達に必要な事なんかを
ネット、TVを通じて探してメモっていました。
またこれから日本がそうなるであろう海外のパンデミックの状況をEURO NEWSで見ていた
その音声をバックに流しています。記録する、残すという書の意味をデジタルでもって表現しました。

それを矢﨑さんとコラボレーションした「書を宿す」は
それから約1年半経っての状況を表現した作品にしました。
世界の知識人達が今現在言ってる事をイヤホンで聞きながらメモを取る。
私は机の上でそれだけをやっています。

矢﨑さんは遠くからその書いてる音で踊る。
遠くからというのはコロナ禍で当たり前になったリモートです。
書き残して伝達した情報を音にして、受け取った矢﨑さんが体で表現する
そんなパフォーマンスでした。

とは言え、その遠くからを実現するには金沢側で協力して頂いた方々がホントに素晴らしい
仕事をしてくれていました。カメラ、音響またそれをライブで中継してくれていましたので
沢山の機材と調整が必要でした。また当日は雨になったので
予定のスタート地点が直前に変わった事もあり、ギリギリまで調整して下さっていました。
そんなバタバタもありつつの本番だったのですが
映像が素晴らしかったので、配信の方でもしっかり楽しんで頂けた様です。

矢﨑さんのダンスは見てもらえると分かる思いますが
”一筆書き”に例えられる通りにホントに流れる様なダンスで
重力を感じない様な軽い動きです。しかしパフォーマンスが終わって一旦裏に控えた時の矢﨑さんは
ボタボタボタ~と汗が凄い量で流れ落ちていました。
見てる方はそんな風に見えなかったそうなのですが
やはり凄い筋力を使ってられてのあの軽い動きなんだと改めて感じました。
素晴らしいですから是非見て頂きたい。

現地では私の顔バレしていない事が良かったみたいで
私が同じ会場で書いている事をギリギリまで気付いて居なかった観客も沢山いらっしゃった様です。
矢﨑さんと私が同じカメラに映った所で初めて私も会場に居ると
認識された様でした。

私がイヤホンで聞いていたユヴァル・ノア・ハラリさんの言葉の中で
多様性の話がありました。
コロナ禍で人種、セクシュアリティ、宗教などこれまで一見蓋をされてた様々な事が表出しました。
自分達が本当の意味で多様性を尊重しないといけないという内容をお話していたのですが
そういう意味ではアーティストという人達は、その多様性の最たるモノで
得意分野なんじゃないかと思ったのです。

自分達の存在意義としては、その多様性とはどういう事なのか
それを伝える事も自分達の役割なんじゃないのかと思いました。
それがパフォーマンスの最後に書いた言葉の意味です。

このパフォーマンスを通じて自分の役割を改めて実感したという訳でした。
現在youtubeで見る事もできますので
よかったらご覧ください。
https://youtu.be/7dij1kNbgNE
2022年良い年になって欲しいですね。

  
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Posted by HIROSHI UETA at 00:53Comments(0)個展・グループ展/Exhibition